「げきとつ! 凶悪三●モン!」
Written by Saeko Kisaragi
注:コメディとして製作したものです。お遊びとしてお読みください(笑)。
ポケ●ンマスターを目指す月斗は今日も、晴れ渡った空の下、次の町に向かって旅を続けていた。(オーキド博士ナレーション) 足元を、小さな黄色の影がぴこぴこと耳と尻尾を動かしながらついてくる。 「いい天気だなぁ、ピカ●ュウ」 「ぴっかちゅう」 ぴこんと片耳を倒して足元の電気ネズミが月斗を見上げた。 ちいさな二本足でぴこぴこ歩くたびに、ギザギザの尻尾が左右にゆれる。 なんとも愛らしい。 森の中を真っ直ぐに歩く。ところどころに虫の鳴き声なども混ざっている。 この森にはどんなポ●モンがいるんだろう? 考えるだけでわくわくする。 そのとき。 がさっ。がさがさっ。 向かって右側の茂みが騒がしく揺れて、何かまぶしいものが飛び出してきて、月斗に容赦なく体当たりを食らわせた。 その勢いに、思わず月斗はそこに倒れこんでしまった。 「ピッカ〜〜〜〜!」 むかっ、と青筋を額に立てて、ピカチュ●が飛び出してきた影に向かって威嚇する。 ちりちりとほっぺの赤い電気袋が帯電している。 「あぁ? なんだてめぇは。なんか、文句あるってのか」 トッ、と道に降り立ったその金色の影が、突然。 しゃべった。 金色の毛並みに紫の瞳を持った猫型の生き物が、●カチュウを睨みつける。 「ピ、ピカ……」 その凄みのある睨みに、思わずピカチ●ウは月斗の影にぴこっと隠れる。 「さ、三蔵様……ちょっと待ってくださいよ……」 月斗が呆気に取られていると、その猫型の生き物が飛び出してきた茂みから、なにやら小さな人影が出てきた。 「フン。何で俺がてめぇを待たなきゃならねぇんだ」 道に座っているその猫型ポケ●ンは、ゆらゆらと長い尻尾を揺らしながら優美な姿を保っている。 「……一応、飼い主ってことになってるんですけど、ワタシ」 飛び出してきたチビがげんなりとしながら猫型ポケモンを見る。 体力がないようで、膝に両手をついて肩で息をしていた。 「飼い主だぁ? 下僕の間違いじゃねぇのか」 前足で顔を洗う手つきをしながら、さらりととんでもないことを言った。 「いや、まぁ、それでもいいですけども」 「いいからキサラギ、早いとこ次の街に連れてけって言ってんだよ。俺の毛並みが汚れるじゃねぇか」 ゆらりゆらりと左右に揺れる尻尾が、太陽の光を跳ね返してまぶしいぐらい美しい。 「次の街って、具体的に何処ですか」 「知るか。俺の中の何かが西に向かえって言うんだよ」 「へぇ、結構適当なんですね……」 すっぱぁーん。 「いたーい!!」 やけに気持ちいい音が響き渡り、チビが頭を抱えてうずくまった。 いつのまにか金の猫型ポケモンの手には、真っ白な。 ハリセンが握られている。 「うるせぇ。俺に口答えしてんじゃねぇよ」 絶対零度の視線でチビを見下して、その猫型が吐き捨てる。 「陰険! オーボー! 暴力タレ目!!」 頭を押さえたまま、チビが叫ぶ。よほど痛かったらしく、涙目だ。 「何だと!? もういっぺん言ってみやがれ、あの世に逝かせてやる!!」 金猫は、毛並みを逆立てて、チビを威嚇している。 「ピ、ピカ●ュウ、何だか雲行きが怪しいから、そろそろ行こうか」 「ピ、ピカ……」 やっと我に返った月斗とピカチ●ウは、そろそろと立ち上がると、道端の真ん中で罵りあいを続けているひとりと一匹を迂回して先に進もうと……。 「待て」 きらん、と金猫の紫の瞳が光った。 びくうっと月斗とピカチュウがそこで固まる。 「てめぇら、ぶつかったのも何かの縁だ。バトルしていけ」 「え〜〜〜っ!?」 抗議の声を上げたのはチビのほうだった。 「嫌ですよバトルなんて!!」 「まだ文句言う気か、貴様」 チビは、なぜかよくは分からないがぼろぼろになっている。引っかき傷、青あざ、その他。 「だって、三蔵様ちっとも私の言うこと聞いてくれないんですもん!」 「何で俺がてめぇの言うこと聞かなきゃならねぇんだ」 「だって、一応トレーナーですし」 「レベルが違うんだよ」 さらっと金猫が吐き捨てた。言葉は時に、何よりも残酷な凶器になるものである。 打ちひしがれてへたりこむチビなど気にもせず、金猫はピカチュ●に向き直った。 「それとも何か、逃げるってのか、てめぇは」 「ピッカ〜〜〜ッ!」 さしずめ通訳するとしたら「むっか〜〜〜」とでも言ったところだろう。 元々勝気な●カチュウは、額に青筋を立て、止める月斗も振り切って、二本足でしっかと立った。 ちいさな手を握り締めている。 やる気満々なのか、電気袋からちりちりと稲妻が走っていた。 「よ、よしピ●チュウ! "でんこうせっか"!」 覚悟を決めたらしい月斗が叫ぶと、ピカチュ●は勢い良く地面を蹴った。 金色めがけて飛び込んでいくが、金猫はひらりと飛び上がってそれをかわした。 すぐさま方向をかえて、ピカチュ●がそれに突っ込んでいく。 と。 すぱぁん。 突然、何処からともなく取り出されたハリセンではたかれてしまった。 「ピ……」 「甘ぇんだよ」 ころんと転がったピカチ●ウを、ハリセンを肩に担いだ金猫がせせら笑うように見下ろした。 ピ●チュウは、はたかれた痛みよりもその笑みに恐怖を覚え、月斗の足元まで駆け戻った。 「ピカチュ……」 あまりに怖かったらしく、月斗の足にしがみついてほとほと泣き出してしまう。 「おーっと、ピ●チュウ、"でんこうせっか"で突っ込んできましたが、三蔵様それをひらりとかわし、得意の"ハリセン"と"どくぜつ"、さらには"極悪凶悪脅迫"で泣かせてしまいました! これはいじめです!!」 いつのまにか茂みの中に避難していたチビが、メガホンを口に実況中継をはじめていた。 「ああ?」 勢い良く振り返った金猫に、チビはがさりと茂みに潜ってしまう。 「てめぇ、いい度胸してるじゃねぇか」 一歩一歩茂みに近づきながら、金猫がハリセンをいずこへかと仕舞いこんだ。 「そんなに死にてぇとは知らなかった。悪かったな」 声には温度はかけらもない。 茂みががさごそと動いているのは、中のチビが逃げ場所を探してさまよっているせいだろう。 道の端では、月斗とピカ●ュウが、震え上がって抱き合っている。 「ひとつ忘れてるようだが教えてやる。俺には"ハリセン"以上に得意技があるってことをな」 いつの間にか、金猫の手には緑色の巻物のようなものが握られていた。 茂みの中から目だけを出して状況を見守っていたチビが「ぎゃあああ」と叫び声を上げる。 「叫ぶのはまだ早ぇぞ。くらえ!!」 月斗とピカチ●ウは、危機を感じて駆け出した。とりあえずここから離れたほうがよさそうだ。 後ろで、 「魔戒天浄!」 という叫びと爆発音、何かしゅるしゅると蛇が這うような音と、かわいそうなぐらい情けない悲鳴が響き渡った。 やがて森には静寂が戻った。 ようやく足をとめた月斗とピカ●ュウは、一心不乱に走ってきた道を振り返った。 遥か遠くでもうもうと何か煙が上がっている。 どちらともなしに顔を見合わせ、首をかしげる。 「なんだったのかな、あれ」 「ピカ」 「……ま、いいか。次の町に急ごう!」 「ピカ!」 月斗とピ●チュウは再び連れ立って歩き出した。 ひとりと一匹の旅は、まだまだ続く。(オーキド博士ナレーション) |
終われ。 |