へびのまえあし


解説未満の呟き
自己満足の覚書
読むとかえって混乱するかもしれません(笑)

けっこう、うろ覚えのまま書いてます


Baroque /  雷雨 /  Butterfly /  鬼市〈 ki-shi 〉
雪狼は笑う /  紅の花 /  翼を連ねて /  花や今宵の
人喰いの海 / 



人喰いの海
Juvenile Stakes Novel Festa 帝王賞 (2004.6.)
お題「海岸」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 最初お題にあわせて4つくらい案があったのですが(失われた大陸に関るような話とか、人魚が出てくるような話とか)、ふっと、水平線にともる火のイメージが浮かんできたので、それに。

 [しらぬい ―ひ 0 2 【▽不▽知▽火】
 夜間の海上に多くの光が点在し、ゆらめいて見える現象。九州の八代(やつしろ)海・有明海で見られるものが有名。干潟の冷えた水面と大気との間にできる温度差によって、遠くの少数の漁火(いさりび)が無数の影像を作る、異常屈折現象とする説が有力。しらぬひ。[季]秋。〔景行天皇が肥の国を討伐した際、暗夜の海上に正体不明の火が無数に現れたという故事がある〕]

 実際の不知火は上記のような現象なので、とりあえず正体不明の火のイメージだけを利用。



花や今宵の
Juvenile Stakes Novel Festa56 桜花賞 (2003.4.)
お題三つ選択 「入浴剤、虚言、依存、(マトリョーシカ)」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 「行き暮れて 木の下影を 宿とせば
          花や今宵の あるじならまし」  (平忠度 / 『平家物語』より)


 もともと蝶の異称に夢虫というのがあります。中国の思想家・荘子の有名な一文が元だということですが。そこでこの話では、蝶とは別の幻獣として、夢にからむ『夢虫(ゆめむし)』というのを登場させてみました。
 どの幻獣の場合もそうなのですが、夢虫も、何か深遠な意図があって…というわけではありません。彼らはただ生きるため、命を繋ぐため(子孫を残すこと)に夢を渉り、夢に棲み、時にその夢を映す幻獣です。だからこの話でも、夢虫が感動・共感して棲む対象を選んだわけではまったくなくて、その想いが強かったから、彼らの好む力ある石があったから、その樹を選んだだけなのです。だからやはり夢虫ではなく桜の樹があくまで主役なわけ。

 この話のもう一つのモチーフは「まよひが(迷ひ家)」。『遠野物語』にある、山中忽然と現れる無人の家とそこでのもてなし、です。これと、冒頭の和歌とを組み合わせて、桜の花が夢見たもう存在しない宿のもてなし、という形にしてみたわけです。
 花のもてなし、っていいと思いませんか? 迷わず、素直にもてなしを受けたロウの一人勝ち(笑) もしくはクリス一人に面倒押しつけたとも言う、ゴメンね、クリスv

 最後に、桜の異称のひとつが夢見草であることもつけ加えておきましょうか。


翼を連ねて
Juvenile Stakes Novel Festa34 七夕記念 (2002.7.)
お題三つ選択「飛行、鳥、遠距離、(銀河)」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 この話は、中国(唐)の詩人・白居易の作 『長恨歌』、唐の皇帝・玄宗と楊貴妃の悲恋を歌った詩からモチーフを取って、書き出しました。

  七月七日長生殿
  夜半無人私語時
  在天願作比翼鳥
  在地願作連理枝

   訳:
    あの七月七日、長生殿の
    人の寝静まった夜半、ささめごとを交わした時、陛下は誓ってくださいましたね。
    『天上に在っては翼をならべた鳥になりたい。
     地上に在っては一つにあわさった枝になりたいものだね』と。

 以上、『中国名詩選 下』(岩波文庫)より引用。
 ここに出てくる『比翼鳥』というのは伝説上の鳥で、雌雄並んで飛ぶのだといいます。また『連理枝』はやはり伝説上の木、二本の幹から出た枝と枝がくっついて、木目(理)まで一つに合わさっているというもの。ともに仲のいい夫婦の譬えで使われます。

 フェスタタイトルがそもそも七夕記念でしたから、こっそり七夕がらみでいくか! ということで、幻獣の《比翼(ひよく)》が生まれたのでした。他にも、笹竹と短冊→星祭の星の樹に願いをこめて灯火をかける、とか。
 ちなみに毎度苦しむ登場人物の名前も、この回は七夕関連から。「ステラ」は「星」という意味の語で、「ライラ」は「琴座」からとってました。

 そしてこれは、まだ始まっていない二つの恋物語のプロローグ、なのかもしれません。


紅の花
Juvenile Stakes Novel Festa20 年越東西対抗戦 (2001)
お題「出身地の名物(又は名所)」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 ジュヴには三大陸物語関係の話だけを投稿しよう、と当初こっそり決めていた私を悩ませてくれた、ある意味究極のお題(爆)
 結局、「ファンタジー世界に地元の名産品を出すのは、アリですか?」という恐る恐るの問い合わせに了解が得られたので、山形の名産品(蕎麦、米、日本酒=米の酒、果物各種、花笠、等々)から最終的に紅花を選択。さらに地名等をまんま中国音読みにする、といった荒業で取り込み、ようやく話の大雑把な流れを検討する段階に。

 しかし、本当の苦しみに襲われたのはその後……
 あちこち検索しても、紅花から紅(口紅)に加工する過程について詳しく掲載してるとこが見つからんのです(泣) 話の展開からは紅花染めの工程がわかればよかったので、とりあえずそれで満足することにしましたが。…地元で加工できない理由ってのをはっきり説明するために、知っときたかった、本当は。
 実際、紅花の収穫・加工は過酷な労働だったようです。また花の生産者が紅なんて、かなり高価でしたから手に入れるのは夢みたいなことでした(山形の紅花=紅餅はかなり上質だったようですけど)。紅花染めも紅色に染めた物というのは、花の生産者の手には入るものではなく、鮮やかに染め出すための染屋の秘伝とかあったようです。紅餅を作る過程で水に溶け出す黄色の染料を使っての染めは、生産者の所でも行なっていたようですけど。
 その辺の事情から、娘の父親がかなりの無理をして嫁入り道具として紅を手に入れたのだ、という展開を思いついたのですが。紅だけでなく紅の入れ物もまた凝って作られ、それだけで一財産だったという話もありました。無くても話が通じたので入れなかったけど、その辺りまで書ききれなかったのが少々残念。

 最上川舟歌の掛け声で始めるという荒業で物語を始めて、ロウにふらふら動いてもらい、………微妙に流れが悪い。話の骨格は仕上がってるのに、肝心の場面になかなか到達できない。何かが足りない、何かが。どうしよう……………。
 そんで結局、紅花の化身の登場(爆)
 以前から、なんとなくそんな気はしていたのですが、どうもほんの少しあやしいものが出てこないと、うまく話を動かせないようです。それが証拠に、その後の筆の進みのスムーズなことといったら………(泣)
 とりあえず題名からの連想もあって、全体的に色鮮やかさを意識して書いたものでした。

 ロウの、狂言回しとして側面がよく現れた話だったかも。


雪狼は笑う
Juvenile Stakes Novel Festa16 ダブルスフェスタ (2001)

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 今でも悔いの残る、大遅刻をかましたお話(爆) そのせつはダブルスを組んだ相方のゆなさんに大変ご迷惑をおかけしました……。

 さて。その前に出した話がどれもロウが活躍する系だったので、今度はロウがふり回される話にしようと思い、ロウに対抗できふり回せるキャラクターをと考え、さらにそろそろ今後のためという思惑もあり、魔法使いさん初登場。陽気でお喋りのクリス(クリストファ)が生まれてしまいました。
 魔法とまじないの違いについては、やっぱり魔法使いに説明させたかったし。

 話そのものは、最初から悲劇が決まってました。終らない冬、死んだはずの人間、美しい女性と雪狼。まっ白な雪原の中の異物としてのロウとクリス。
 流石に、ゲルダに救いが無くてあんまりにもかわいそうだったかなとも思わなくもなかったのですが、『鬼市』と対照的にしたかったから、結局悲劇で。
 圧倒的な、逆らうことのできないもの、そんなイメージを全体に漂わせたかったところもありますね。あと生まれ育ちが東北なので、雪のイメージは問答無用。

 雪狼は、地元の地吹雪のイメージが強いかと思います。とにかく上下と問わず四方八方から吹き上げて視界を奪い、真っ直ぐ立っていることも難しい状態で、ビュウビュウと吹き続けるのです。中学時代はそんな中、それも周囲は遮るもののない吹きっさらしの田んぼの中の道を、朝約45分歩いて通いました(涙)
 しかしながら、そこに悪意や害意なんてものは無い。ただの自然現象です。人間にとってどれほど迷惑であったり恐怖であったりしても、そこには善悪なんて価値観の入り込む隙間は全く存在しない
 雪狼もまたそういう存在です。どちらかというと幻獣の中でも精霊に近い(この辺の設定については、幻獣使いが登場する話で書く予定ではあるのですが)、雷獣と違って動物よりもむしろ雪とか風とかの自然現象により近い存在です。だからそれに人間みたいな感情を求めるのは間違いです。彼らはただ生き物として当然のように命を繋ぎ子孫を残す、そのために行動しているに過ぎない。
 その辺りのことがわかってるので(幻獣使いでなくても魔法使いは知識の収集者でもあるので)、クリスはゲルダの幻想を砕くことをためらいません。死者は還らず、無理を通そうとすればその代償が必要となることを知っているからです。彼女の祈り・願いは確かに純粋ですが、それは山を中心とした一帯の季節を歪め。しかも、生き返らせようとしたはずの相手そのものは、肉体を失ったまま彼女に気づいてもらえぬまま彷徨っている。それをそのままにすることは、クリスにはできないのです。

 ところで登場人物の名前をアンデルセンの童話『雪の女王』からとったのに、誰にも指摘してもらえなかったのはちょっとさみしかったです。
 それともあんまりメジャーな話じゃないのかな、『雪の女王』って。


鬼市〈 ki-shi 〉
Juvenile Stakes Novel Festa15 J.S.トライアル(選抜特別) (2001)

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 非常に好評を得たお話でした。愛らしい子どもが効いたか、ロウの活躍がよかったか(笑)

 『鬼市(きし)』というのは、呼び名は違っても洋の東西双方に同様のものがあったようです。別名・泥棒市、沈黙の市。犯罪者や山人などのいわゆるアウトサイダーが盗品や日用品などを売買する市で、相手の素性を詮索せぬよう小声や身振り手ぶりでやりとりするのが普通らしく。また官権の目に留まらぬように場所も時も定めず、山中などに一夜にして現れ、夜明けを待たずに片付けられたのだとか。
 またこうした現実的なものとは別に、死者や人外のものたちの市としての『鬼市』の伝説も伝わっています(中国では『鬼』とはオニではなく幽霊など死者のことをさします)。西洋では妖精市などがこれに当たるでしょう。こちらの『鬼市』でも大抵は沈黙が約束のようです。声を出す・呼吸するということが、つまり生きていることを示すからでしょうか。死者に影がないというのも昔話や伝説などではよくある設定です。こういう場所で生者もしくは人間であるとばれると捕まって仲間にされたり、夜明けなど一定の時刻までに出ないとそのまま出られなくなってしまったりという展開になったりもするようです。そういう危険極まりない場所ではありますが、こういう場所でしか手に入れられないものだとか、得られない情報などというものもあるので、まあそのうちまた使いたいものです。

 あと「まじない」。これは『雪狼〜』に説明があるのですが、この世界では基本的に「魔法」はルール、「まじない」は気合ということにしてあります。ロウは魔法使いではないので、追いかけてきた死者たちの追跡を逃れるためにおこなったのは「まじない」。効くかどうかは本人の気合次第。想いの強さと言い換えてもいいかもしれません。
 道の上に線を引く、というのは日本でも見られたもののようです。墓地に死者を埋葬して戻るときに後方に線を引いて、死者がついてこないよう区切るのだとか。これは西洋などにもある風習で、川・道などと同じ役割なのでしょう。
 それから十字路(辻)と月蝕。辻が異界への入り口になるという考えは昔からあるのでそれから。月蝕も異変の象徴のひとつ、常ならぬ、ということで使いました。時間制限の意味でもあります。



Butterfly
Juvenile Stakes Novel Festa26 楡崎記念 (2002.3.)
お題「ゆめ」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 中国の思想家・荘子に、「胡蝶の夢」で知られる有名な一文があります。

 (前略)…、不知、周之夢為胡蝶與、胡蝶之夢為周與、…(後略)
   訳:…、いったい荘周が蝶になった夢を見たのだろうか、
     それとも蝶が荘周になった夢を見ているのだろうか。…

 個人的に、ものすごく好き(笑)
 またギリシャ神話では蝶は「プシュケ」、人の魂の姿であるとされています。
 羽のあるものは、往々にして人の魂の化身とみなされるようです。


 これはロウの物語であり、同時にペトゥロの物語でもありました(ロウの側から書いてますが)。
 「Baroque」を書きおえた時にはすでに『ロウの親友である宝石加工職人』の設定はほぼ確定。『動』のロウに対する『不動』の存在。そこで名前は石を意味するペテロを変形させてペトゥロに。
 『雷雨』を仕上げた辺りでなるべく早めに、ロウがふらふら放浪しているのにどうしてこれだけ安定しているのか、その理由を語る話が必要だなと思ってました。自由と拠り所が無いこととの違いですね。これを書けば、今後ロウを書くのがずっと楽になるぞ〜と何かが囁いてた(笑)
 そしてまたロウ自身については鳥ではなく蝶々だなと(なんとなく)。ちょうどこの頃に渡りをする蝶のことをテレビで知って(日本にもいますが、この時に見たのはアメリカ大陸の五大湖〜メキシコを渡る蝶でした)、冒頭シーンはその映像からのイメージ。
 で。動と静、自由・不自由、宝石(原石)、蝶々、とイメージを並べていくうちに、二人を繋ぐモチーフとして琥珀がいいなとなったわけです。
 この話のロウは、ちょうど父親から完全に独立してさほど間がない頃です。それまでは、一人旅でもあくまで父親の保護下にあったのが、全部自分の自由・自分の責任になった、そんな頃。今まで無意識に頼りにしていた父親の手を、もういいだろうと放されたところです。自分ではこれで自由だ大人だと思ってるのですが、一方で無意識の不安がある。
 特に彼の場合は、故郷本名という自分を証立てるものの一部を、失っているに等しい状態であるわけ。それを補っていた父親を失ったので、その不安定さが一気に出てしまったのが、この話の時。


雷雨
Juvenile Stakes Novel Festa13 新人戦&未勝利戦 (2001)
お題を三つ選択「仲間、音、光」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 旅商人ロウ男前作戦決行(笑)
 そしてまた、シリーズ化の罠にはまった最初のお話でもあります。

 それにしても自分では本当にまったく意識していなかったのですが、雷獣を水晶球に封じ込めるという設定に、某電気鼠を連想したと指摘されたときの衝撃といったら……(爆)


Baroque
Juvenile Stakes Novel Festa10 (2001.6.)
お題「街、手紙、涙」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 ジュヴのフェスタ初参加作品でした。シリーズにしようなどとは少しも考えてなかったのですが…。
 何より、旅商人ロウは最初はこの話には影も形もなかったという事実!(笑) いったい何が起こるか、やってみるまでわからないものです。ああ、そういえばユウの正体、謎のままになってる、どうしよう(笑) 一応、書く気はあるんだけど。

 この話には、私のファンタジー観の基本のひとつが表れています。人魚のミオです。
 彼女は幻獣です。上半身は人間の(それも美女の)姿をしています。人と同じ言葉を使うことができます、つまりちゃんと会話・意思疎通できるわけです。人と恋もします。でも、彼女は人間ではありません。ここが、重要。
 人と似た姿をしたものを、人は自然に自分と同じものとして扱いがちです。感情移入しやすいし、投影しやすいからです。自分と同じ形をしているから自分と同じように考えるはず、そんな思い込みがどこかにあるのです。(逆に、自分と姿が違っていれば、たとえ同じ人間であっても違う存在であると考えてしまうこともあります)
 特にミオの場合、上半身だけなら立派に魅力的な人間の姿をしているし、ちゃんと愛の言葉も通じます。人とつきあうのと同じようにつきあっても問題ない、そう思えます。
 でも、彼女は人間ではない、幻獣です。命の成り立ちが違い、生き方の基本が違う、人とは異なる生活をしている、人とは違う生き物ですから、当然人とは違う感情や思考を持っています。
 この話で登場した真珠をその象徴と見ていいでしょう。
 ミオが真珠を男に、自分を捨てた恋人に渡すのは、未練や悪意からではありません。ただ単純に、その相手に向かう自分の想いを渡す、それだけの意味しかありません。たとえそれが相手を傷つけることになるのだとしても、そんなことは関係ないのです。そんな想いはすでにすべて真珠として自分の外に切り離してしまったのだから。
 ミオはいつまでも純真無垢です。それは、貝が異物をくるんで真珠にしてしまうように、全ての痛みを切り離して捨ててしまうから。痛みを乗り越えて成長する、ということは彼女には在り得ません。それが悪いとも言えません。何故ならそれは、人魚としてはごくあたりまえのことだからです。

 人間とまったく同じ思考や感情を持つ幻獣というのも充分に魅力的なのですが、私はやはりあくまで人との差異を描いてみたい。そのずれによって生じる恐怖や喜びを書いてみたい、そう思うわけです。

 幻獣は、人ではないからこそ魅力的なのだ、と。そう思いません?

 (ちなみにミオの名前は「澪+セイレーン」→「ミオ・セイ・レーネ」)