028 : 菜の花



 まだ枯れ色の方がずっと多い、だだっ広い河川敷に、まるで何枚も何枚も布を敷き広げたように、みっしりと黄色い花が咲いている。曇り空の下でさえそこだけ余分に光があたっているみたいに、唐突に鮮やかな色をむき出しにしてみせる。春の風景だ。
 空に高くひっきりなしに囀り続ける雲雀。
 騒がしい。


 冬の間にいくつかのものを埋めた。
 形のあるものと、形のないもの。必要なもの、必要のないもの。
 みんな目の前の河原に埋まっている。
 河原には花が咲く。みっしりと、黄色の花弁で枯れ色を埋めていく。
 土手の上から眺めれば、ひどく明るく目を誘う。
 花の真上では騒ぎたてる雲雀の声、空に高く響く。


 あの黄色もこの黄色も同じ花に見えるけれど、実は違うんだよと、前を行くおまえは言った。
 違うけれど同じだねと、また混乱するような言い方をして笑う。
 なんでもいい、地面を覆い隠してくれるものなら、それで。
 すると、隠れるのかなと、と呟くのが聞こえた。
 間違いなくそこを指差して、あれは晒してるんじゃないのか、隠しているのではなく?
 ぞっとした。ああ、本当に。
 形のあるものと、形のないもの。必要なもの、必要のないもの。美しいものと、そうでもないもの、見ようによっては美しいもの、醜いもの。
 どれもこれも全部、見られたくないもの知られたくないものばかりを、冬の間にあそこに埋めた。
 雪は役たたず。どれほど深く積もってもこうして春にはすっかり消えてしまうから、吹雪の中で雪を掘り、凍った土を掘り、深く掘り埋めて隠した。
 埋め戻したその上に、春には草が生える、木が生える。根は絡み、枝が広がり、そうして目の前から消え去る、全部。
 雪は消えて入れ替わり地表に姿を現した、あの花は菜の花。次々に溢れこぼれるように咲く黄色の小さな花の群れは、ことさら眩しく光を集める。
 ならば人目も集めるのか。隠してくれると、だからこそここに埋めたのに。
 晒しているだって? やめてくれ。


 おまえにそう見えるというのなら。
 もう一度、埋めてしまおう。
 知られたくないものばかりがその目に見えてしまうというのなら、おまえも一緒に。
 形のあるものと、形のないもの。必要なものと、必要のないもの。美しいものと、そうでもないもの、見ようによっては美しいもの、醜いもの。命のあるもの、命のないもの、命のあったもの。
 全部全部あの下に。
 おしゃべりなあの黄色の花の下、根の先すらも触れないよう、掘り起こすことのできないほどに更に深く。
 二度と誰にも見られぬ場所に。


(2003.4.6)






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