Color



 冬枯れの庭の中に立って、彼はさすがに困惑した。
 本当はまさに冬らしい庭の景色を撮りたかった。常緑樹が一本も植えられていないこの庭はこの季節、そういういかにもの風情が出るのだが、困ったことになった。
 咲いているはずがない花が咲いているのだ。
 天候不順が影響しているのだろうか。しかも位置が悪い。いや、個人的にとても気に入ってる花なので庭でもいい位置に植えているのだが、そのため今は逆にどの方向から撮ってもその花がフレームに入ってしまう。


 色が。


 空は曇り。
 低い雲は分厚く日差しを遮り、目に映る世界は真昼でも日暮れの気配を纏う。
 いっそ雪が降って目に入る全部を白く覆ってしまうとか、鮮やかに変容してゆく夕焼けならばまだしも。
 枯れた風景を皮膜のように包み込み、全てが鈍く、曖昧になる季節。


 もう一度、カメラを構えた。
 フレームの真ん中に。
 それだけがあまりに力強く、光を放っているようにさえ見えた。


 明日には散り去るただ一輪の花が。







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