Tea Time



「よく来てくれた。いやいや、もうずっと誰もここまで来てはくれなくてのう」
 一息にともされた灯火は、暗がりを遠ざけるばかりでなく、キラキラと調度品に反射して部屋中を輝かせた。
「まあまずそこに座って、お茶はどうかね? この日のために、良い葉を選びぬいて準備しておるのだよ。ああ、わしが自分で動くわけにはいかぬで、シルフィードに噂を聞いて、コボルトに頼んだ。つまりは、大陸一の品ということだな」
 浮かれた調子で客に説明しつつ、お茶の用意が整えられたテーブルの上、彼は注意深く丁寧にお茶を注いだ。
 彼が自慢げに言った通り、素晴らしい香りが立ち上る。
「こんな場所まで来たからには、腹もすいていることだろう、すぐに何か摘む物を……、いやいやいや、心配することはない、ちゃんとしたパンや菓子だ。いくらわしでも、客人に生肉を出すような無作法はせぬよ。甘い菓子は好きかね? 焼きたてに、採ってきたばかりの蜂蜜をかけるのはどうだい。メイプルシロップの方がよければ、ドリアードに掛け合って今から分けてもらうが」
 手際よく一皿、また一皿と、見るからに美味しそうな焼き菓子や芳ばしい香りのパンを並べた大皿がテーブルを埋めてゆく。
 いっそう悦ばしげに、彼のおしゃべりは続く。
「甘いものが苦手ならば、チーズもあるぞ。この山の山羊の乳から作ったチーズだ。食物を加工するのにも、コボルトの気の長さには感心するのう。熟成されたハムと一緒にパンに挟んで食べてみてはどうだね。どれもこれも、一度は食べる価値ありの逸品だと、このわしが薦めるぞ」
 口上が終わるまでに、一人の客をもてなすにはさすがに多すぎる皿が出揃っていた。
 これでは今すぐパーティーを開くと言っても、土産分にまで足りそうだった。
「なに、食べきれぬとな? では次にはおまえさんの友人たちも一緒に連れてくればよかろう。なになに、気にするな。近頃は本当にまったく退屈でな、うかうか外に出るわけにもゆかぬで、こうして客人を迎えておしゃべりにつきおうてもらうのが、唯一の楽しみなのだよ。さあ、何でもいい、ここに来るまで見たものや聞いたことについて、話しておくれでないか。珍しい話題ならばなお良いのぉ、ふぉっふぉっふぉっほ………あ」
 ぼふっと、音を立ててテーブル一帯が炎に包まれ、椅子に座らせてあった人形ごと燃え焦げていた。
 しまった、と口を閉じた彼は天井を見上げ、すっかりと脱力した尾から頭まで地面に臥せ伸ばした。
 何度練習しても、調子にのって笑い出すとついつい炎が洩れてしまう。彼にとってはほんの火花だが、人間にしてみたら笑ってられる代物ではなかろう。
 コボルトやシルフィードたちでは、付き合いが長すぎるだけに、話し相手には物足りないのだ。退屈を紛らわすには人間の客がいい。できれば、火花に負けない人間の客人がいればいいのだが、そうもいかず。


「やれやれ。これではいつになったら安心して客を呼べるのやら………」


 天下無敵のドラゴンは、極めて退屈しているのだった。







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