東 風(こち)




冬を
死の季節と誰が言うのか
薄皮のような沈黙の下
人の目の触れ得ぬ場所で滾る生命は荒々しい



弓を引く
限界まで弓弦を引き絞り


どこまでも静かに引き絞られた弓弦は
ひそやかに静止して
時を待つ
放たれるべき瞬間を


穏やかさに包みこまれた激情を
過つことなく解き放つべき一瞬を


きりりと
引きしぼった弓弦を
その沈黙に
手放す


頬を掠める矢の鋭い唸り


矢風は激しさを露にして
的に至る



春を
生命の季節と誰が言うのか
華々しく迸る饒舌な光と熱と色とは
寡黙な季節の余波にすぎない
ただ時を得た風に促されて


徴のように風はどよめく








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