月の出




月が昇る
ゆるやかに獣が目覚める


その暗がりを知っている
冷えた手触りの恐ろしさも
かなしさも
あまりにもこの身に馴染んでいる


虚ろなる胸の内に
獣を飼っている
もう長い間
獣は飢えている
飽食を知らぬままに


その暗がりを知っている
湿った肌触りの心地良さも
懐かしさも
あまりにもこの身に馴染んでいる


星を探す目に
眩しすぎる闇を映し
昇る太陽に
たてがみを焦がし
ひそやかな暗がりに棲む
咆哮することさえ求めず
独りうずくまる洞に
飢え冷えていく肉と骨と皮と


その暗がりを知っている
なまぬるい澱みも
刺すような微風も
あまりにもこの身に馴染んでいる


月が昇る
やがて沈む月が
陰りを重ねる月が
獣の咆哮を待ちながら
ゆるやかに
高みに落ちる






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