帰 郷




ありとあらゆるものが
ただに美しき夢であると


私は覚えている
水平線に沈んでゆく太陽の
それはそれは鮮やかな光彩を
その描きあげる透いた薔薇色の空を


私は覚えている
空を映して波立つ水面の
それはそれは輝かしいうねりを
その染めあげる輝いた蜂蜜色の海を


私は覚えている
海から吹き上げる夕風の
それはそれはさわやかな香りを
その刻みだせる澄んだ潮含む風を


私は覚えている
彼方に鳴り続ける潮騒の
それはそれは心騒がせる響きを
その胸振るわせる暗く懐かしい轟きを


知らなかったのは
その全てをどれほどに愛していたかということ
気づかぬほどに
ひたすら肌身に近く在ったこと
ただそれだけのこと


美しい土地は他にも多くあるだろう
比べることの決して叶わぬ
心に住まう唯一の場所が
誰の裡にもあるだろう
ただここは私の在る地
私の愛しく思う諸々のものを
見出すことの叶う場所


ただに愛しき夢であると
知っているからこそ
もはやこの地の美しさを
忘れることはないだろう






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