夜だった
テレビが少しばかりうるさく
互いに本を読み新聞を読んでいる
茶の間での日常だった
あまりにありがちだったから
覚めるまで気がつかなかった
もういない人のいる夢だった
何年も前の涙の破片が
ゆるやかに胸をさざめかせる
今さらだろうに
機械音は単調で
静か過ぎた夜明け前
兆しなくあふれて涙は
こらえる努力も無為に
まだあたたかい手で滲んだ
もしかしたら二種類あるのかと
命の在り様を想ったほどに
唐突な涙だった
機械にも知れるものと
人にしか伝わらぬものとがあるのなら
あれが別れだったのだろうか
おそろしいほどに感じた体温を
最後に聞いた機械ごしの声を
取りもどせぬように
目前にあったはずの面影がたよりない
そして再び気づくのだ
死の形もひとつではないと
瞼を下ろしても
やわらかだった眠りはもう遠い
夜だった