無音連鎖


 何をも知らぬように
 交わり去ってゆく視線
 交錯する絶望に耐えられず
 鳥が白く飛翔する

 いくつのプシュケーたちが
 失われてしまったのだろう
 この音楽の無いガラクタの中で


  引力


真っ直な線をひいてみる
地球の上の直線は
地球に魅かれて円になる


  月夜の箱庭


青い砂
滅びる為に生まれ出でた生き物たちの結晶がサラサラと
ため息のように
 足下で すすり泣く

くずれてゆく形を追い
 手をのばし
  届かぬことに歯ぎしりする
己れにふりかかる破片は砕けながら
  降り積む

ではおまえは消えてしまうのか
何もかもをその内にのみこんだまま
 もろともに
 約束した通りに

結晶は
太古の凍てついた水滴のように命に満ちて
 崩れさる
滅び
 滅び
  滅び

    涙

滅びてゆくものは知らない
滅ぶために生まれ出でたものは何も

何も知らない


  熱帯夜


端のぼやけたオレンジ色の月
つくり物めいた街に灯がともる
うす紫色にわだかまったスモッグの海に
魚たちは身をひるがえし
胸を躍らせ
夜色の旅にすべりこむ

足のむくまま 空を見上げて
オレンジ色の 月を見ながら
足下は いつも暗く不確か
月を見上げて歩く
ここは 海の底 淡くふるえ
魚たちが泳いでいる
ひらひらと





  陽凝り


 ひぐらしの鳴く声をききながら
 ひとりぼっちで
 日の出の瞬間を待っていた

 ひんやりと涼しい風の囁きを
 ひっそりと
 額に記憶していた

 日射しはきのうよりも弱くなり
 日溜りは薄まってゆく夏をよどませて
 ひかえめに主張するだろう

 光が頬をなでるので
 ひろがってゆく朝の空の中に
 非対称の夜がとけてゆく

 百万の泣き声よりも胸の痛む
 ひぐらしの声の響く朝





  穏やかな痛み


 泣きたくなるから
 ときどき
 水にとびこんで笑うみたいな
 気安さで
 涙を確かめる
 たいていは 真夜中に


  かがやく


空に
空と
空の夢

君に
君と
君の星

かがやく