足あと


 あ、夜が白いよ
 (知ってる)
 あれは雪あかり(青白い沈黙)
 雪はやんだのね
 (冬の夜は明るいのだからふしぎ)
 少し歩いてみようか(さくりという音)

 並んでゆく足跡は歪んだ線路みたいだ
 (今、列車の音がしたよ)
 最後の踏み切りでりちぎに止まってから
 本物の線路の上を歩いた
 (自動販売機をさがそうね)
 でも白い息も嫌いじゃない


  境界


目をかたく閉じても
追いかけてくる入れ子の夢に
しきりと手をさしのべる。
立ちあがっても
まだ夢の中にいるのだから
一度の成功を喜んではだめなのだ。
立ちあがった暗がりにため息をついても
私は不安だ。
いったい
何度目をさませばよいのだろう。


  川を渡ろう


さあ 川を渡ろう

対岸には荒野
風に泡立つすすき野が
心象風景のように待ちかまえている

さあ 川を渡ろう

たどりつく前に目ざめる夢と
退いてゆくすすき野を目ざして

さあ 川を渡ろう
さあ
川を渡ろう





  こがれる


 風はこそげおとされて吹かず
 紅は枝の先にしがみつく
 やがてふりだす雪が高みに眠っている。

 夢に指折り数えたように
 朝に窓を開く。
 薙ぎ倒された草が枯色をさらし
 陽光を待っている。

 きのうの暮色は人間よりもあわただしく
 街灯はさらに気ぜわしく
 冬の太陽をとむらっていた。


  風車


赤とんぼと同じ風をつかまえて
まわれ
まっ赤な手に秋祭り





  らむね


 やわらかい指先にまとわりつく水の色の
 境をなくしてつながりあう
 刻々と拡散してゆく粒子群
 カチンとぶつかりあうあのガラス玉
 幼い頃のいたずら
  砕けるのは星間物質
  藍色のアスファルトの上一面に
  並べあげたならば
  蒸発してゆく宇宙空間
 音を立てて喉を流れ落ちてゆく
 舌先で
 宇宙が転がる


  小夜曲(雪おこし)


雷鳴が波の上に轟きわたり
夜来の雨は道の端に凍え始める
庭木はきしきしと音をたてて
低い空をかかえあげ
ものうげに眠る空の横顔に
ふりしきる冬のささやき


  月夜


海鳴り遠く
風は吹きつのり
朝はまだ遠く
夜ははるかに暗く
人声無く。
夜の口笛は
木を巡りて高く
海の泣き声は
夜にゆられて低く
人声無く。
耳の底深く
共振を続けては
帰還する波の
夜を描きては重く
人声無く。
目の裏側で
落下する螺旋の
凝視する窓に
夜が微笑むが如く
人声無く。