まどろみ


 開け放った窓から窓へ
 等温にゆらぎながらたわむれてゆく

 皮下熱に煮溶かされ
 ふつんふつんと気化するごとに
 風がさらってゆく

 細胞が自己破壊を考えだす頃
 皮下熱だけが残されているよう
 世界がせばまってゆく

  ため息のようにひるがえる
  驚きのようにはばたく
  昇天のように気化する

 開け放った窓から窓へ吹き過ぎる
 皮下熱だけがとり残されているよう


  扉


出てくるかもしれない
出てこないかもしれない
そこにはあるんだろうか(かくれる場所が)
そこにはいるんだろうか(君か、それとも)
じっと見てみて
少しずつ近づいてみて
響くかもしれないなんて
気にしてもいられなくて

 ただ四角いだけではないの

そこにはあるんだろうか
何かがいるんだろうか
出てくるかもしれないけれど
何が出てくるかを知っている人はいない
(いるのかもしれないけれど)

 ただ四角いだけではないの

ノックしよう
ふるえてしまって
きちんと音がしないかもしれないけれど
たぶん四角いだけなのだろう

 ただ四角いだけ
 ではないの





   蓮池


盛夏

 空は青々と眩しく、ぷっくりと白い腹をむけられている。濁り水は静かにぬるんでいた。
 金魚たちには蓮の葉の下に喘ぐよりほかに逃れる場所が無く、一匹、また一匹と犠牲のように緋色を裏返してゆく。真昼時を選んで数を確かめに行くのが日課になった。
 蓮花は何のかかわりもないかのように咲き続けていた。よくよく見れば、黄色ばかりで。



早朝

 今朝、薄氷がはった。
 触れるとたやすく破れてしまう水面には細波もたたない。指先が濡れた。
 蓮の葉はくすんで水の色にまぎれていたけれど、不意に緑をおもいだした様子。中央により集まってもまばらで、何だかうろたえている。
 昼にはもう溶けてしまうはずの氷のむこうに、緋色のひれがひらめいて見えた。
 見えたような気がした。


  足跡も凍る夜に


空は氷のように冷たい
星と月とを閉じこめて
風も凍っている

誰もいない道の上に立って
感覚も失せた耳を傾ける
音がきこえる

冷たい冷たい天体の音楽に
(あちらに天狼)
(そちらに螢惑)
(月が落下する)
示す指が先端から共鳴を始め
凍ってゆく音がきこえる