001:時計/ 002:荒れた大地/ 003:さいごの皇帝/ 004:霧深い都市/ 005:呪い
006:切れない絆/ 007:ギルドマスター/ 008:滲んだインク/ 009:竜の眠り/ 010:夢

001:時計

はじまりを刻み
終わりを告げる
理想のままに生み成された
一個の楽園

支配する、と
声高に命ぜられた『時』にこそ
支配された呪具よ


002:荒れた大地

種を蒔きに行きますと
その人は言った
どんな魔法でも追いつかぬ
広大な不毛の大地に
花を見たいのですと
その人は笑った

止めるべきだったのか
共に行くべきだっただろうか

花は咲いた
緑はあふれた
ただ一人の人が
諦めることなくなしとげた

止めるべきだっただろうか
共に行くべきだったのか

種を蒔きに行きますと
あの人は言っていたのだ
どんな魔法でも覆いつくせぬ
遮るものなく広がる大地に
花を見たいのですと
あの人は笑っていたのだ

止めるべきではなかったけれど
共に行くべきだったのだ

緑に覆われ
花に満ち
肥沃な大地に
あの人だけがいない

003:さいごの皇帝

きらびやかな肖像画にも
詳細を誇る歴史書にも
彼の人、故国を滅ぼせり
そう記されるだろう

まぎれもない事実でいて
真実はまた別の色

004:霧深い都市

霧かかる夜には
歩きなれた街並が
見知らぬ場所に変貌する

カッカッと響く足音
石畳の上を

物事が明らかに見えないのは
この霧のため
それだけですか

カッカッと響く足音
石畳の上を

つないだ指の先に
あなたはいますか
霧は深く輪郭は曖昧で
影はただ人の形
定まるところなく霧は流れ
私とあなたの間を隔てて惑う

カッカッと響く足音
石畳の上を
どこまで行けばいい
頼りない指先の
熱ひとつに縋って

005:呪い

胸を刺す言葉ひとつ
知らぬのだろうおまえは何ひとつ
その真実は俺を殺す

おまえがかけたのだその眼差しで
ただ一瞥で俺は不完全な生きものになりさがった
だのにおまえはまるで見知らぬものを見る目で
見知らぬものに与える笑顔で俺を刺し貫いた

眼差しひとつでおまえは俺を変え
言葉ひとつでおまえは俺を殺し
その事実をいつまでも知らずにいるのだ

006:切れない絆

あの日から
とても遠い場所に来た
名を捨て
故郷を捨て
姿形さえすっかりと
自分自身にさえ思い出せぬほど
変えてしまったのに

どうして君は
迷いなく駆け寄ってくるんだ
何故それだけのことで
全てを賭けて手にいれたものが
色あせてしまう

そしてまた後悔すると
わかりきっているのに
君の手をとらずにいられない

007:ギルドマスター

この若造が
にやりと笑ったあなたの言葉が
私の最初の目標になり
生き残る力になったと今ならわかるね

難題をありがとう

あなたにもらった最後の課題だ
私なりにやりとげてみせようじゃないか
あんときにゃ
思いもしなかったがね
ここに座って
こんなふうに
あんたの気分を知ることになるとはさ

008:滲んだインク

古い古い本に記された
昔々の物語の
最後に
インクが大きく滲んで
読めない言葉がひとつ

悲しい物語を終わらせるそれは
どうか喜びの涙の故であってほしいと
思った

009:竜の眠り

束の間、空を離れて
竜がまどろむ

人々は祈る
遠い目覚めを
永い眠りを

竜はまどろむ
重なりゆく地を寝床に
人々の祈りを子守歌に

010:夢

時すら意味をなさぬ場所で
千里万里をも越えて

語るのだ、呆れるほどに
忘れてしまうだろう
目覚めた瞬間にすべて

それでいい

たとえどんな形でも
いずれ出会うためだから

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