01. はじまり 弾けました ぱんっと 胸の中 小さく小さく 弾けました ああ、もう戻れない ものすごい勢いで ふくれあがってゆくのです この 生まれたての宇宙は |
02. 歌う 破裂しそうな胸から 痛みを吐き出す 高く 低く 響くほどに ほんの少し何かが癒えて それが哀しく思われた 目に見えないものが 形にならないものが ひそやかに私を満たしてゆく 胸が張り裂けそうになれば 形とせざるを得ないだろう たとえ喉が焼け果てるとしても ほとばしる私の悲鳴を けれど誰かが手を叩いて褒めた なんて美しい歌だろう、と |
03. 水面 花弁のようだと言えば 龍の鱗のようだと返った 漣立ったまま 凍ってしまったのだろう 昨日はひどく寒かったから 硝子のようだと表現するには いささか不器用に 美しかった |
04. 海 凪いだ姿に 過ぎる時を忘れる 焼けた陽を飲んでゆくさまは 飢えたようで 眩しさに目をそらすことさえ 許されぬかと 光の名残を抱えこみ 穏やかに波打つ 明日はまた別の顔で |
05. 風 目にはさやかに見えねども 物みな全てが静まった天の 彼方より湧き立ち 駆け出す音 どどぅどどうどう どうどどぅどどう 息止めて待つ ひどく高い場所から 迫り寄ってくる唸り どうどどうどどぅ どどどどどどどど 静寂の薄膜を破り轟と 轟と 木々を世界を軋ませる時 ようやく かりそめの姿を現すのだ |
06. 音 雨の日に 或いは暖かな冬の晴れ間に 聞こえてくる透明な 歌とも言えぬ この響き 豊かに 止め処なく 滴り落ちる水滴が 奏でる 水面に出会う喜びを |
07. 銀色 月色冴えて 青ざめた雪原 キラキラと凍る 眠れないよ しんと澄んだ影へと 降り積むは ただ光 静かすぎる夜に |
08. 夢の砦 肌に温むふとんの重み 身を丸めて溺れる 今は出会えぬ人との逢瀬 心地よく どうか この一瞬を許して 守って 光に溶けゆく夢の名残 あなたにすがる指先 朝日を遮る緑 窓辺に繁るささやかな抵抗 目覚めの前 最後の砦 |
09. 羽根 真夜中をひとり 渡る 蝶々は気まぐれ 何処行くも けしてあなたのためでなく ひらひらり 毀れる羽 明日には まどろむだけのモノになる 忘れないで欲しいのは 飛んでいる姿だけなんだよ |
10. 夜 ヒトリがよくて ヒトリは嫌で 雑踏に迷い込めば 午前零時少し前 真昼の陽射しの届かない建物の中にある 作り物の真昼 眩しく明りを満たしても 偽れない夜の空気は ほらそこに よりそってくるんだ わがままな孤独を 言葉無くあやされて 諦めた ありきたりな 夜 |
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