31.遠い/ 32.はかない/ 33.旅/ 34.時/ 35.森/ 36.結晶/ 37.振り子/ 38.吐息/ 39.太陽/ 40.鳥


31. 遠い

ぴったりと肩をふれあわせ
傍らに座って

何を

思ってる?

しっかり指をからめあわせてさえ
あなたの心は彼方に住む



32. はかない

どうしよう
あなたの声を
思い出せぬことに
気がついた

夢の中でなら
迷うことなく聴きわけられたのに



33. 旅

風がいいな
生まれ変わるなら
地球の上どこまでも
翔けてゆきたい
知り尽くしたい

そして次は空の向こう
宙の彼方へ、と



34. 時

止まれ
と唱えて
ほんの少し
と祈って
悪あがきだね
じたばた

いちいち止まっちゃ
限がない
時計を合わせる
甲斐もない
わかっちゃいるよ

でも
朝が来るたびにさ
あと少し

布団の中たてこもり
じたばた



35. 森

「自然の豊かなこの土地で
 心豊かに暮らしましょう」

整然と居並ぶ管理された緑
躓きもせぬ見かけ倒しの獣道
心安く行きましょう
冒険のない自然探索

 いいや浅い林も怖い
 深い森ならなお怖い

去勢された森の中
荒ぶる魂はまどろんでいる
穏和にきらめく木漏れ日
やわやわ肌を撫でるそよ風

 いいや晴れた日の林も怖い
 嵐の森ならなお怖い
 森にひとりあるならば
 己の獣を知るだろう
 皮膚刺す気配に気づくだろう

「自然の豊かなこの土地で
 心豊かに暮らしましょう」

緑と笑顔と誘い文句
堂々記される管理者の名称
決して逆らわぬ自然など
どこにも存在などしない
人の手に作られた森にさえ
昔も今もその先も
従順ならざる秘密は眠る



36. 結晶

ゆるやかに蒸発を続けていけば
溶液はいずれ飽和する
もう
形無いままではいられない

気配だけであったものが
何時と何処と示せぬほど唐突に
「在る」ことを主張しはじめる

時間をかければかけるほどに
常に
これほどに
大きく育つものなのだろうか



37. 振り子

右にゆれる
左にゆれる
どちらにも同じだけ

止めようか
止めまいか
迷う気持ちも
ふらりふらり
ゆれる



38. 吐息

声にならぬままに
混じり
飲みこまれた
問いかけ

温度差が意味を失う距離に
こぼれて



39. 太陽

その色はナニ
その熱はナニ
その距離はナニ
その巨大さはナニ

焼かれ飲み込まれるのは
まだはるか先ほぼ約束された話
今はただ高みにあって
手が届かない
届くわけない

その眩しさも
その熱さも
その遠さも
その苛烈さも

比べものにならないのは
ちっぽけな自分
ままならない
真っ直ぐ見ることさえできないくせに
愛しいのか憎いのかも
わからなくなってしまう
太陽はいつだって
そこにあるだけなのに

めぐる季節は
答えを与えてくれるだろうか



40. 鳥

風ぬるむ
行け行けよ行け
整然と隊列成して
はるかに北へ

兆しはさらに激し
春一番となって心煽る
広げろ大きな翼を
季節に追われぬ強さで



01 - 1011 - 2021 - 30/ 31 - 40/ 41 - 50


/BACK/