People in the Marvelous Wind






》 hunt 6:

 その青年は「ロウ」と名乗った。二十歳か少し過ぎたくらいだろう。一目で同業のトレジャーハンターだということがわかる格好に、少し羨ましく思う、ほどよくしっかりした体つきと身長。なんとなくいいな〜と思う顔は、今は困惑の表情を浮かべていた。黒っぽい髪は気がついたら伸びていたといった様子で、適当に結ばれている。もっときちんとすればよく見えるのにと思う。
「で、あんたは?」
 彼に聞かれて少年はにっこりと笑って答える。
「おれ? シルヴって名前。たぶんきみが思ってるよりは年いってるよ。」
 図星だったらしくロウは言葉をつまらせたようだった。
「……ここにいるってことは同業者だろうがな。モグリなら……。」
「失礼なっ。きちんと許可証あるんだからね!」
 そういうとシルヴは片耳をロウに見せ、ピアスを弾く。
 その形、材質、そして音も確かに公式な遺跡探索許可証だということを示している。これは偽造防止の為に『遺跡』から発掘されたオリハルコンを特殊な加工をして作ったもので、デザインも複雑。当然そう簡単に真似ができるわけはなく必ずアラがでる。ロウがそれがわからないような技量ではないとシルヴは判断を下した。人を見る目にはそれなりに自信がある。そしてそれはあたりだったようだ。
「悪かったな。考えてみれば普通のやつが来るわけないか。」
 そう言った彼は、じーッと見つめていたシルヴに気付き視線をむける。シルヴはそれに答えるようににこぉーっと笑顔を向けた。少し、引きつっているのが……自分でも、感じる……。
「あのさ、後ろに『守護者』がいるんだけど。」
「なにぃ?!」
 シルヴの言葉にロウが思わず声を上げた瞬間、猛然と金属の塊が突進してきた。
 二人はさっとそれの両脇をすり抜け、後ろに回る。独特の形状を持つそれは『遺跡』を徘徊し侵入者を処分するもの……様々な種類があるが今目の前のものはずんぐりとした人の形をしたものだった。
「もっと早く言って欲しかったな。」
「やっぱり? じゃあ責任取るね。」
 ロウの呟きにそう答えるとシルヴは未だ後ろを向き、獲物を探している『守護者』の足元のあたりを見る。
(確かこの辺だったな……。さっきの仕掛けは。)
 先ほど自分が引っかかった罠を確認すると、『守護者』の膝の裏の辺りに勢いよく自分の足を蹴りだした。
 不意を突かれたために大きくバランスを崩した『守護者』はすぐそばにあったシルヴの目には捉えられない何かを途中で断ち切る。勢いよく雪崩れ落ちた水はソレと共に暗く深い穴の中へ落ちていった。
「なかなかやるんだな。」
 意外そうに感心しているロウにシルヴは笑顔を向ける。
「へへーん。あ、良かったらさっき言ってた場所、案内してくれないかなぁ?」
「さっきって……オリハルコンの?」
 ロウにコクンと頷いたシルヴをみて、どうするか思案する。反対側から来たようだから、まだ探索していない場所が気になるのだろう。既にシルヴが探索してしまっった場所……それとももっと別の何か……トレジャーハンターの感というものだろうか。シルヴは一瞬だけ考え、それを即実行した。まず、残念そうな表情を作る。そして……。
「駄目ならいいよ。一人で行くから。お互い忙しいだろうし……。」
 目を伏せただけなのだが、可愛らしいだけあって何人もよろめいてしまいそうだ。が。
「でも。」
「うん?」
 シルヴは後ろでに隠し持っていたものに指をかけ……。
 カチン
 小さく音が響く。それと同時に……
 軽い爆発音、それに反した天井の崩れ落ちる大きな音と壁が倒れ、次々と落ちる瓦礫の音……辺りを包む砂煙……。
 ロウがこれから行こうと思っていた方向、シルヴの来た廊下は誰が見ようと完全完璧に崩れ去っていた。二人の位置からわずか一メートルもないところだ。
「…………。」
「これじゃあ行けないね。」
 にこにこと笑顔を浮かべながら見上げるシルヴ。そんな彼を恨めしそうに見つめるロウ。


 初めて会っただけでは特に何も思わない。けど、命を助けてくれた上に親切にしてくれた人は別だ。その中でも彼に対しては……上手くは言えないが、嫌いなものではなかった。






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