People in the Marvelous Wind
》 last hunt 2 シルヴはひたすら走っていた。いつものようにサイズの合わない服を着て、手には鞄を提げている。 急がなくてはならない。いつもなら構わないが、今日は特別な日なのだから。赤信号をこえ、閉まりそうな門をすり抜け、ひたすら走る。そして…… ガッターン! 「せぇぇぇぇぇぇーッふーッ!!」 勢いよくドアを開け、叫びながらシルヴは部屋に駆け込み、部屋中の視線を浴びる。それと同時に予鈴が鳴り響く。 今彼がいる場所は高校の沢山ある教室の一つ、ホームルームだ。そして着ている服は制服のブレザー。 シルヴは正真正銘の高校生だった。もっともトレジャーハンターの合間に学業といったように、こちらが副業と化しているのだが。 息を整えるために深呼吸を繰り返していると影が落ちた。 「まったく。いつも言ってることだから言ってやろう。もっと早く起きてこい。」 「えぇ〜? テスト開始には間に合ったからいいじゃん。でしょ?」 クラスメイトの言葉にシルヴは小首を傾げて相手を見上げる。そのまま無言の戦いが繰り広げられ……。 「お前ら! さっさと席に着け。テスト配るぞッ!」 担当の教師が丸められた用紙を抱えて入ってきた。とりあえずこの勝負はお預けのようだ。 何とかテストも無事終わり、半日よりも早く学校を出る。 その隣にはシルヴと睨みあっていた少年が歩いていた。 「それでさ〜。そこの遺跡ね、本当は短期型で……。」 一生懸命シルヴは彼に遺跡探検の話をする。 彼はシルヴの数少ない友人の一人でクラスメイトだ。一生懸命話しているシルヴの声にきちんと耳を傾け、いちいち頷いている。傍から見ると実に仲の良い、下校風景だ。 「……でね、そのトレジャーハンターの名前、ロウって言うんだけどさ。凄いんだよね。」 「ほう? どの程度の凄さなのか教えてもらおう。」 尊大な口調にシルヴは気にする様子もなく、ポテポテ歩きながら答えた。 「え〜っとね。アイテム凄いし感も凄いし鑑定も凄いし、運動神経も凄かった。情報網も凄いみたいだし。」 「……珍しいな。」 彼がぼそりと漏らした言葉を聞き取れず、シルヴは彼を見上げた。しかし彼はそのまま歩いていってしまう。 結構長い付き合いだが、シルヴが「凄い」というのは珍しい。なのでそれだけ「凄いヤツ」だったのだと彼は考える。 一方のシルヴはというといつものことだと気にもせずに肩をすくめただけだ。 (……そういえば……。今回はなんかすっきりしたかな?) いつもはもっと……疲れたような、ずーんとする感覚が残ってしばらく学校に行く気がなくなるのに、今回はそんなことがなかった。あえて言うならアレを使った反動の頭痛ぐらい。 ……けど……今までも頭痛はあったのに……なんでだろう? …………ああ、もしかして……。 「あのこと、話したから?」 その言葉は友人には聞こえなかったようだ。ただ黙々と歩いて、シルヴの土産話の続きを待っている。ちらりと彼を見て、彼ともまた違うと考える。 まあいいや。 そう思って続きを話そうと口を開くより早く、ピピピピピ……と電子音がシルヴの胸ポケットから響いてきた。 「仕事か。」 彼の言葉にシルヴはモバイルを操作し、オーディーンから送られてきた遺跡の情報が写されているのを確認しながらシルヴは答えた。 「うんまた短期だよ……たまには長期を見つけてくんないかな〜? オーディーン……。」 愚痴っても仕方が無い。シルヴはモバイルをしまうと元気良く身を翻して足を踏み出す。 今度はアレの手助けは無いが、使わずに済むのならそれでいい。しょっちゅう使っていたらツマラナイ。 次はどんなのだろうと思うとなんだかワクワクしてきた。 「じゃあ! また今度話すからね、エンスイ!」 そして手を振り、友人を置いて走っていく。まるで気まぐれの風のように、軽やかに。 |
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