People in the Marvelous Wind 2(仮)
》 hunt 2 : 「………ぐぶふっ」 なにやら珍妙な声に振り向けば、PCのモニターの前でクリスがほとんどキーボードに突っ伏す格好でひくひくと悶絶していた。 「なにしてるんだ、おまえ?」 手に入れたばかりの小型の『遺物』をチェックしながら、ロウがおざなりな口調でとりあえず尋ねた途端、壁面の馬鹿でかいスクリーン全面に彼が見ていたらしい映像が再生された。 『あなたの発明品が大好きですっ!!』 「………」 いきなり響き渡った、聞き覚えのあるボーイソプラノ。 ロウは沈黙し、クリスは盛大にのけぞって爆笑する。 『だから、もっと知りたくて、えっと……。一緒に遺跡の中、行かせてくださいっ! お願いします……。駄目……ですか?』 「ひーっ、わ、笑える………っ」 細い銀色のフレームの眼鏡を外し、目尻に浮かんだ涙を拭いつつクリスが再び爆笑の発作に負けて腹を抱え、身を捩った。あえて喋ろうとする声がすっかりうわずっている。 「こ、こいつ、この前おまえが『遺跡』で会ったっていうガキだろ? まぁたすっげー面白いことしてんじゃねえの!」 何処から映像を拾っていたのか、画面いっぱいにあふれるこの無闇やたらに”かわいい”表情。人ごみに埋もれながらこじんまりした花束片手に愛嬌という武器を目一杯使った小柄な少年に、周囲の大人たちがぼろぼろと陥落するさまがはっきりと見て取れた。 なんというか………ちょろい。 「まったく…。それより何処の映像だ、こいつは?」 「ん? 現在進行形の『遺跡』の取材映像。夜のニュース用だろ。飛ばした映像データが、ひっかかった」 指でちょいと示されて、クリスはあっさり答えた。言うか言わないかのうちに日本地図が画面右下に出現し、そこが映像の発信箇所なのだろう、光点が点滅する。 記録媒体の小型化が進み、やたらに大きなカメラを持ち歩く必要はなくなったが、不慮の事故でテープやカードが破損する事態は無くもない。特にこんなふうに多数の人間がもみ合うような中での撮影では、せっかくの映像を失う危険性は案外大きい。ゆえに、手元で記録すると同時に中央局に同じ映像データを送信するのはごく普通の手段だ。また逆に飛ばしたデータの紛失に備えて手元に記録を残すことも同様だが。 クリスは興味を引くもの、あるいは重要だと感じる情報を収集する一手段として普段からそれらを大量にチェックしているが、今もちょうどそのひとつを拾いあげたらしい。合法かなんてことは、まあ、あえて問わない。あれ以来、それとなく少年を気にかけていたのだろうか。 それにしてもこの騒ぎはいったい何事なのだろう。と改めてスクリーンを見れば、少年とそれを取り囲む取材陣、小型マイク、警備員、そして彼ら全ての中心に鎮座しながらも妙に周囲の風景にそぐわない、研究者風の男。 「で。こいつが何かやってんの?」 「これからナンカやるんだってよ。ランクEの『遺跡』を使っての実用試験、ハンターの方々に朗報、新発明品に乞うご期待!! …な〜んてな」 まるで重要視しているとは思われない、棒読み口調のクリスの背後に流れ続ける映像の中、少年の目標もあの研究者っぽい男らしい。人ごみから完全に抜け出してしまい寄り添うように隣に立ち、それとなく笑みなどを作っては男の視線を捉えるよう動いている。 ………ほんと、ちょろい。 「んん? もしかしてアレ、おまえの友人か?」 「じょーだんっ!!」 目を大きく見張り、不本意極まりないと憤慨の表情で立ち上がってまで、叫ぶようにクリスは否定した。 「おまえね。いくら興味ないって言ったって、あんなのと俺を同列にするなよっ」 「そうなのか?」 「そうなんだよっ、失敬な。それなりのレベルでなきゃ、おまえだって俺と懇意になんてしないだろうに?」 「ま、確かに」 「…いいけど。それにしたって、あれと同類扱いされたかないなぁ…」 大げさすぎるほどの派手な仕草でクリスは肩を竦めた。よっぽど不本意だったらしい。少々申し訳ない気分になってロウが軽く謝罪した、途端。 「あ。な〜んだ、もしかしてこの場所、知りたいか? 今行けば、かわいいあの子に会えるんじゃないの?」 「あんな肩慣らしにもならないレベルのとこに行ってどうするって」 すっかり気の無い様子になったロウは、しかしにやにやと細めた横目で思わせぶりに見遣るクリスの表情に大きく眉を顰め、露骨に無視して山積みの『遺物』からまたひとつ取り上げた。見覚えのあるものは取り除け、初めてのものを注意深く観察する。さほど目新しいものはないが、機能的に興味を引かれるものがひとつふたつ。 「なあ、クリス。これなんか、おもしろそうな……」 ふいに口調を改め、半ば身体をひねるようにロウがクリスに声をかけた、その時、電話の着信音が高らかに鳴り響いた。 |
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