People in the Marvelous Wind 2(仮)
》 hunt 7 : 「…………はぁ」 シルヴは目の前で踊りくねっている彼を見て溜め息をつく。 この場所に来るまでにほんっとーに色々合った。が、ありすぎて思い出したくない。この連中がいなければ今頃は本格的に遺跡に潜ってたっぷりとお宝を手にしているはずなのに。ハンターの義務がなければ放り出して探索に行くのに。 とはいえちゃっかりちょろまかしてたりするのだが、それはそれ。 「何か出そうだしさ」 ぐるりと見回してみれば、円形のその場所にはそれまでとは違う装飾が施されていた。天井を見れば抽象的な絵が、観客席のような場所には貴金属や輝石の輝き。今いる素っ気ない灰色の床とは比べ物にならない豪華さだ。 「そういえばさ、オーディンの調子はどう?」 何となくのその言葉にすかさずブリュンヒルデの声が応える。 『悪くはありません。けれどこの間の件の影響や調整の為に凍結してあります。そちらのWPCの状態は?』 「治ったよ〜。一応。でもまだ完璧じゃないから置いてきた」 もう一度、溜め息をつく。 「きみ達も、オーディンも、あれも……皆きちんと治してあげれたらいいのにな……」 その呟きはいつもとは違いどこか沈んでいた。そうしたら制限が少なくなり、もっと自由にできるのにと思う。 『そう思うなら遺跡の破壊をしてないで、遺物の回収に集中してください。欲張ると何もできなくなりますよ。それよりも』 言葉を途中で切ったブリュンヒルデにシルヴは何? と問いかける。彼女の視線はシルヴに向いておらず、何かに気をとられている様子。 『どうやら不埒な輩がいるようです。』 不埒な輩……彼女がそう呼ぶのは敵対ハッカーしかいない。それにしても一体誰だ? 彼女に喧嘩を売ったのは。 思い当たったのはただ一人。まだ一度も会ったことのない、けれど顔は知っている。 (そういえば知り合いって言ってたからなぁ。ちょっかい出してきてもおかしくないか) ブリュンヒルデと彼……どっちが上かは分からないが微妙なところ。先手は打たれた。正面からいっても、裏からいっても、きっと無駄。 どうしようかと視線を彷徨わせてふと、気付く。 くねくねとした動きからギクシャクとした動きに変わった研究者の姿に。 「見よっ! これがウエコさんのハイパーネットワークだっ!」 シャキーンという効果音が聞こえそうな勢いで、大仰なポーズを決めた彼の声が響き渡る。 そういえば電波の通りにくい遺跡内でも通信できるとか何とか。遺物ならばそんな事は簡単に出来るし、大体高ランクのハンターには不必要な代物だ。そして怪しい機能のそれは、ほぼ予想通りだった。すぐにシルヴは興味をなくしてブリュンヒルデとの通信に戻る。 「で、ええっと何だっけ……。あぁ、そうそう対策だったね。ねぇ、ブリュン」 『はい? 何をしでかすつもりですか?』 かなり長い付き合いの彼女の言葉に、シルヴは信用ないな、と笑う。 「ただちょっと、アレに繋げてくれないかなって。もちろんカムフラージュして。おれのサポートはいいからやっちゃって」 モバイルの画面に映る彼女が悟り、すぐさま行動に移った。シルヴはにまぁ〜っと笑い軽く数回、モバイルのキーを叩くと何でもないようにしてモバイルをしまう。 何となく、覚えのある気配を感じた気がして再び見回したシルヴの目が、まだ踊ってる坂崎と遺跡内部を撮影しているスタッフたちの向こうにある大きな素っ気ない扉で止まった。中央に大きく竜のレリーフが刻まれたその扉には何かを感じる。 (……何だろう) 先ほど見回したときにはあんな扉はなかったはず。よく見れば所々に見覚えのある虹色の輝きが覗いている。 スタッフもそれに気付き興味を持ったのか、それともただ単に次に向かう場所と思ったのかはわからないが、それをテレビカメラに収め、レポートし始めた。 シルヴが視界の端で本当にほんの少しだけ動いたものを捕らえる。眇めてみれば…… 「あーっ! ロウだぁ! ひさしぶりぃーっ」 腹の底から思いっきり声を出してその場いっぱいに響かせて、その顔を今まで以上に輝かせて、力の限り右手を振る。 知り合いなのかと言うスタッフの疑問にシルヴは思いっきり笑顔で答えた。 「トレジャーハンターだよ。これから世界一になる有望株のね。」 言うだけ言うとシルヴはスタッフの様子も見ずに走りだす。軽快な嬉しさ丸出しのリズムでわき目もふらず、真っ直ぐに。 「ローウっ! ちょーしはど……」 シルヴの声が途中で途切れ、彼の踏んだ床も切れて……いや、床を覆っていた化粧石が消えていた。そのためむき出しになった床にかなり景気よく突っ込んでしまう。 「一体何……」 転んだ体を起こしてよくよく見てみれば、捲れ上がる音も、移動する音も無く先ほどの扉に石が吸い込まれていく光景が飛び込んできた。 全ての石を飲み込んだ時、その扉の竜の目が輝く。オリハルコンと同じ色の目が。 |
← 《 hunt 6 》 《 hunt 8 》 → |