月 時 計




01

覗き見るのは月ばかり
さみしさに
ゆっくりと狂ってゆくことを知るものさえ



02

太陽とは異なる速度で
台座に時を刻む月
求められて血潮はゆらぐ
海に属した証のように



03

昨日の夢が震える
影の示す時は歪んだ標
頼れるものは他に無く
望んだ何かもすでに無く



04

水盤にひとかけの月光
さざ波に実体なき針はゆらぐ
庭の奥深く
覗き見る者は



05

針は影
時は光
夜のみ進む
足音ひとつなしに



06

庭の隅
群れにはぐれて転寝する
夜にしか用をなさぬ時計は
太陽を継ぐものではない



07

草いきれに包まれて
それは静かに微睡み
誰も目覚めさせようとせぬまま
時はひたむきに食い違っていく



08

忘却を許して夜は満ち
喪失を咎めて月は欠ける
確かな標とはなり得ない
再び円かになろうとも



09

雨は遠のき
雲薄らぎて
月に供寝す
緑陰やさし



10

寝待ちの月に
囁かれ
ふいに目覚める
転寝の床



11

花降る夜
花弁の底に失われ
時も示さず
月を見上げる



12

常のままに巡りつつ
ごくごくわずかに遠ざかり
今宵もあなたはしらしらと
光まとってそこにいる



13

月到る
影満つる
石は冷たく時を受ける
だがもはや
示すべき刻を失っては



14

欠けを補い
仄光る影は囁く
失くしたのではない
潜んでいるのだと



15

月影静かに針を撫で
終わる夏の夜の色を変える
文字盤は残る熱を抱き
遠のく空を見上げている



16

冷え切った水をたたえ
文字盤は玻璃の装い
偽りなく影を受け
月光に平らかなる



17

月影はらみ
花びらは
埋もれゆく石盤に
輪郭淡く時を落とす



18

地が揺れて
月は静か
傾ぐとも
光降る
ふれるのは
常のことだ、と










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