People in the Marvelous Wind






 》 hunt 4:

 ここの遺跡はどうやらとんでもないものが隠されているようだ。そう思いながら一本道の通路でただひたすら足を動かす。その後ろには轟音を立てて水が迫ってきていた。
 あの空気の流れは、水の流れのものだった。唐突に部屋の天井からバケツをひっくり返した……いや、コンテナいっぱいの水をひっくり返したような水が落ちてきたのだ。初めに耳がその轟音を捉えた瞬間、無意識に飛び上がり部屋から出たために潰されることは無かったが、それでも大変なことに代わりは無い。
 そんな状況でも少年の目は『遺跡』の様子を探っていた。不気味な顔が並ぶ暗い空間……。
 足の裏の感覚は微妙に上り坂になっていると教えている。しかし水の勢いが止まる前に飲み込まれるかもしれない。水との距離は縮むばかり。何か使えるものは無いかと視線を走らせた。
「いいものあるじゃん。」
 にっと笑った少年が踏み出そうとしたが、わずかに間に合わなかった。
 痛いほどに冷たい感触が足に絡みつき背筋が凍る。次にはもう、水に飲まれていた。
 初めの勢いより弱くなったとはいえそれなりの勢いがあるため、軽い体は突き当たりの壁に叩きつけられてしまう。
「っ!!くぅっ……ぁ……。」
 意識を失うまではいかないが息がつまり、バシャンと音を立てて冷たい水に浸された床に倒れこんだ。
 手に感じた水の感触にはっとする。
「これ……。この水は……。」
 じっと片手ですくった水をじっと見つめる。その表情は強張っていた。
(ここは……アタリだ……)
 ぐっと水を受けた手を握り締めて立ち上がった。装備に問題は無く冷たく濡れた服が体に張り付くが、仕方ない。早くしなければ誰かに先を越されてしまうかもしれない。ケガのチェックをするが、自分の丈夫さを再確認しただけだった。
 とりあえず今はこの閉鎖空間から出なければなにもできない。だが、ここに来るまでの様子では何もなかった。脇道も扉も隠されておらず罠すらなかった。これは何もないことが罠なのだろうと少年は考える。
しかしおかしい。まだ自分は何も引っかかっていないというのに何故水が落ちてきたのだろう。一定の間隔で壁を叩きながら少年はそう思ったがすぐに振り払った。ここは『遺跡』で何が起ころうとおかしくない場所なのだ。
 ふと叩く手と進む足が止まった。
「なるほどねぇ〜。」
 にっと笑うと彼は壁に向かって一歩踏み出した。壁は何の抵抗も無く彼を受け入れ、何事も無かったかのようにただ深く暗い闇の中静かに……。


 雰囲気こそ先ほどいた場所と変わらないが、今度はいくつもの部屋や罠、仕掛けが存在していた。少年はそれらを気にする風でもなく、鼻歌でも歌いそうな様子で歩いていく。
「ほんとにいろいろあるな〜。ちょっと歩き回っただけでだいぶ良い物が見つかったし。」
 隠し部屋やらいろいろあったが、その中のものはどれも良い物ばかりだ。そのなかでも少年が手にした金属の塊はかなり珍しい部類に入るものだった。少年がそれを指で弾くと高く澄み渡った音が響き渡っていく。それだけで少年にはそれがどれほどのものかが伝わったらしい。自然と少年の顔がにまぁ〜っと緩む。
「希少度も最高! 純度も最高! 大きさも最高! 透明度も最高! こんなにいいのはめったにないよね〜。」
 これで酷い目にあったかいがあるというものだ。少年の手にしたそれは、銀と透きとおった虹色の輝きを持つ……不思議なものだった。普通に地球上に存在するものではないことはすぐに分かる。これが『遺物』たる所以だ。
 もう一度見つめると、大事な獲物が無くならないようにしっかりと鞄にしまいこむ。そしてT字路を曲がった瞬間。
「ぶっ?!」
 ……勢いよく転がった。その拍子に鞄の中身を景気が良すぎるぐらいにばら撒いてしまう。さすがに仕事柄極上品は落とさなかったが、それでも手に入れた『遺物』の幾つかも転がった。
 罠ではない。ぶつかったそれに無機物の固い感触は無かった。と、いうことは……。しかしそこで思考は止まる。
「ふぁっ!! 荷物ぅっ!」
 はっとして慌てて辺りを見回す。薄暗い中見えた範囲に殆どの物が落ちていた。景気良かったのは見掛けだけだったようで、その量も少なかったことに一安心した。






《 hunt 3 》   《 hunt 5 》




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