People in the Marvelous Wind






 》 hunt 5:

 実際、それは鮮烈に記憶に残る出会い方だった、とその後何度でも彼は思ったものだ。


 幾つ目かに見つけた隠し部屋でとうとう十分満足のいく収穫を手にした彼は、いったん外に出ようかと考えはじめていた。
 見つけた得物自体は質も量も不足無い、掛け値なしに非常に素晴らしかったのだが、それをひきかえにして余りあるほど、この『遺跡』に瀰漫している雰囲気がどうにも気に入らなかった。わくわくと心躍らせるものは確かにあって、いつものように楽しみつつも、何かが彼の心の隅に囁きかけているかのように、歓喜にうっすらと陰を刷いていると感じられてならなかったのだ。
 こうした不安もまた探索のスパイスである。だが、その中の『何か』を感知する自分の心を、彼は信用していた。それこそが彼を生粋のトレジャーハンターたらしめているのだから。本能に従うならば、そろそろ引き上げ時。
 当然のことだがまっすぐに出られるとは考えられない。大体、転送装置を経由しているのだから、ただ上に上っていっても元の進入口は使えないに決まってる。まあ、外に出さえすればなんとでもなるし、いざとなれば一応の保険というか使わぬかもしれないと思いつつ仕掛けてきたものもあったから、さほどそれを恐れているのでもない。単に気に食わないだけだ。
 前方に注意を払いながらも、思案にふけりつつ足早に進んだ彼がスピードはそのまま角を曲がろうとしたところで、どんっと何かがまともに彼にぶつかってきた。
「おわっ…」
「ぶっ?!」
 決して油断していたとは思わない。…そんなまぬけだと思いたくない、が。
 感触としては、生き物だった。ぶつかった拍子に跳ね飛ばされ、見ていて面白いくらい勢いよく通路上に転がった姿は、とっさに向けたライトの中でやわらかな濡れた茶色の髪をゆらしていた。何かが石の床に散らばり美しく澄んだ音楽的な金属音が周囲に響く。一切合切を詳しく確認しようとした、瞬間、
「ふぁっ!! 荷物ぅっ!」
 まさしく彼はあっけに取られた。
 転がっていた生き物……ごく年の若い少年、というかはっきり言ってしまえばガキ……は、一瞬後には恐ろしく敏捷に身を起こし、立ち尽くしている彼に全く注意を払うことなく(そこに居ることに気づいているかさえ不明だった)、周囲に散らばったものを一心不乱に鞄へ放りこんでいった。
 どうしてこんな子どもがこんな『遺跡』の中などにいるのか、迷い込んだのかなどと考え、だがすぐに彼は動いた。
 少年の身体が、赤い線をよぎっている!
「あぁっ! 鞄がっ!!」
「ほっとけ!!」
 まさしく間一髪、暴れだす前に引っ張り寄せて後ろに倒れこんだ彼らの鼻先を掠めて、大量の水が風を巻き起こし、ふいに出現した天井と床の穴を落下していった。轟音が反響する通路内で、呆然とそれらを見送った二人だったが、やがて、少年がまるでこの世の終わりのように悲嘆に満ちた声で呟いた。
「おれのオリハルコンがぁ〜〜」
「……おいおい。ここでそれを言うか……」
 死に掛けた人間の口にすることではないのではなかろうか、と彼は呟いて少年の身体を放り出して立ち上がる。そして、やはりまだ床に座り込んでついさっきまで荷物の転がっていた、今やきれいさっぱり何も無くなった場所を諦めがたく凝視している少年に、ため息と一緒に声をかけた。
「…一階層上で、部屋いっぱいになってたぞ、あれなら」
「何処!?」
「階段上がって二区画目に入口がある隠し部屋だ。…部屋自体はもっと上の層にあるかもしれんがね」
 真剣な眼差しが彼を見上げていた。そして彼はまともに目にした少年が恐ろしく、それはもう恐ろしいほどにきらきらしく”かわいい”生き物である事実に目を奪われた。
(なんでこんな子どもがここにいるんだ?)
 再び、その疑問が彼の脳裏を占めた。同時に。
「それはいいんだけど、で、君、誰?」
 そんな質問が少年の口から放たれていた。






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