People in the Marvelous Wind






 》 hunt 7:

 まったく、シルヴと名乗った少年はとんでもないガキだった。
 自分がひっかかりかけた罠を即座に利用して『守護者』を始末した判断の速さと手際はなかなかで、多分専門に習ったわけではないいかにも自己流といった動きも、天性の素質と経験により習得したのだろう、無駄が少ないものだった。危うく小学生に見えそうなほど幼い外見をきっぱり裏切り、今後の経験次第では、トップクラスのトレジャーハンターとして名を馳せることになるのも遠い未来の話ではなさそうだ。
 にしても。
 ちらりとロウが少年の様子を伺うと、にっこりと、やたらに愛らしい顔で笑いかけてくる。
 この少年は、自分の外見のもたらす効果をよく熟知して利用しているのに違いない。強制的に視線を奪われるような一瞬の殊勝な表情の後に響いた軽快な爆発音に、はっきり言って絶句した。
 こういうのは脅迫と言わないか、普通?
 いや、そもそもいつの間に仕掛けた?
 職種柄か、トレジャーハンターには変わり者がやたらに多いが、こいつもしっかり例外ではないらしい。うっかり同意しようものなら、何に巻き込まれるか知れたものではない。が。
(こういうタイプが嫌いじゃないから、困るんだよなぁ…)
 砂塵の中、少年には見えないように彼は苦笑した。こうでなければそもそもトレジャーハンターなどというやくざな仕事はしていない。それに、真後ろぴったりに爆発を収めてみせた腕は同行させるには十分だ。…使う場面としてはどうかと思うが。
 なにはともあれ移動することには異論は無かった。どうせ勘に従ってそろそろ引き上げるつもりだったのだ。彼はわざとらしく肩を竦めると、あごでシルヴを促した。
「今のが何処まで響いたかわからん。いきなり崩れたりはしないと思うが、さっさと動くぞ。それにここのレベルなら、『守護者』は絶対に一体ってことはない。すぐ次が来る」
「だろうね」
 いかにも弾んでいる、声変わりもまだじゃないのかと思われる声音につい、ため息。
「後ろ、ちゃんと見とけ。気を抜くなよ」
「了〜解」
 ここまで深い位置にいて平気でこんな軽口を叩けるのだ、自信過剰の大バカじゃない限り、腕は問題ないと踏む。仕掛けに注意を払いながら足早に来た道を戻ると、邪魔にならない程度の声で質問された。
「ねえ。そのモノクルで仕掛けとか見えてるわけ? ほら、さっきの水のやつとか?」
「ああ、こいつは『遺物』でな。あの仕掛けは赤外線の類だろう。遮断すると約二秒後に水が落下する。…そういえば、あんた濡れてるな。確認するんで三回ほど動かしたから、巻き添えくったか」
「………あれ、君のせいだったわけ? すっごい冷たかった!」
 咎めるシルヴに軽く笑い、ロウは少しだけ身体をひねってまだ湿り気の残る髪を軽くかきまぜた。指に絡みつく、見た目を裏切らないやわらかな感触に、目を細める。
「ま、許せ」
 言った途端の、ふいをつかれたように見せた表情にまたしても目を奪われた次の瞬間、
「げっ…」
 突き当たりの角から、通路いっぱいを塞いだ『守護者』が高速で迫って来る!!
 とっさに通路の窪みにシルヴの小柄な身体を押し込み、自分の身体で蓋をする。重低音をたてて背中すれすれを、分厚い可動壁のような『守護者』が通過した。しかし。
「まだ動くな」
「…これ、何体続くんだろ………?」
 さっきの爆発を感知して集まったのだろうか、或いははじめから数体ずつ動くタイプなのか、ロウの背後を一体、また一体と『守護者』が通過してゆく。振動から推測するとランダムに動いてるようで、また同じタイプの『守護者』だけなのかもわからない。確認しようにもうかつに動いたり顔を出したりするのは危険だった。
「ふうん、やっぱりけっこう逞しいんだね。身長いくつくらい? ジムとかにも通ってる? あ、君は許可証、ペンダントタイプを使ってるんだ」
「………ここで、それを尋くかぁ?」
 ぴったり密着した状態で、暢気な台詞とともに胸元をぺたぺたと触られてロウは思わず腹の底からため息をもらし、笑みさえ含んだまるで悪びれない雰囲気に、天井を見上げて苦笑する。
 喉元にゆれる髪の毛がくすぐったかった。
「そろそろよさそうだな。あんたから、何か見えるか?」
「何も。…動いてる気配も無さそう」
 予想通りの答えに頷いて身体を離す。通路はすでに静まり返っており、とりあえず今は『守護者』の気配はしなかった。
「いいぞ、出て来ても。………どうした?」
「…なんか、もしかしてやばいかも」
 隠れていた場所からすぐに出て来なかったシルヴに、不審げに眉を顰めて振り返ったロウは、次の台詞に言葉を失った。
「ねえ、おれの背中、壁から取れないんだけど……?」






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