People in the Marvelous Wind 2(仮)
》 hunt 3 : カメラに被らないようにするからということで、シルヴはカメラマンの後ろから彼のインタビューを聞いていたが、はっきり言ってたいしたことはない。エンスイに渡された新聞と殆ど同じことばかりだ。 聞きたいのはそんなことじゃない。 一通り喋ったあと彼は皆を引き連れて遺跡の中へ入っていった。今回のこの遺跡は、彼の発明品が本物だったなら苦も無くクリアできるほどの簡単なもの。 の、はずだった。 遺跡内のエントランスとでもいうような広い場所で彼らは立ち止まった。 カメラが彼のそばにある布をかけられたものを映している。 「そしてこれが我輩の発明品だ。よぉ〜く見るように。」 得意げに笑うと彼は、今まで隠していた布を思いっきりなびかせて取り払った。 レポーターのわざとらしい声、彼の格好をつけた立ち姿。 それを見た瞬間、シルヴは全身の力が抜けた。腰が砕けたような感覚。 (…………帰ろうかな……。) 思うが時既に遅しと言うやつだった。 嬉しげに哄笑を上げている彼がすいっとシルヴのそばに立つと言い放つ。 「ははは! 我輩のスンバらしく最高傑作に声も出ないかね! 結構結構! ぐぶぶぶぶぶぶ……。」 ばしばしと満足そうにシルヴの背中を叩いてくる。こちらの迷惑にはお構い無しだ。笑顔が引きつっているはずなのに気がついちゃいない。 彼は離れるとカメラに向かってつめよる。そして下手なウィンクをすると、まるでオペラでもするように声を張り上げた。 「愚民な諸君! これこそが新世代のアシスタントモバイルッ! 軽量かつ丈夫な名づけて“危険な遺跡も一安心、トレジャーハンターズのパートナー! ご主人様は守ります♪ 超高高度自立型AI搭載し、オリハルコンを組み込みどんな衝撃でも壊れないウェアラブル・コンピュータ! すてき♪マッシーン、パートナー・ウエコさん”だっ!!」 シルヴ以外の人間はおおっ!! とその口上を受け入れている。 が。 その“ウエコさん”とがどんなものかと言うと……。 不恰好だった。 それなりにデザインはされているのだろうが、それなりはそれなりだ。 まるで大昔の鎧のような外見に、腕の籠手の部分にはコントロールパネルがこれ見よがしに付けられていた。 シルヴの目から見れば取るに足らないものだった。心配して来て損したという気分になる。 オリハルコンというのはその外殻だろう。いくら丈夫だろうとそれだけでは衝撃が吸収されないため、それの冷却も兼ねた衝撃緩和剤も入っている。構造はといえば、回路の一つが駄目になっても大丈夫なように内部を縦横無尽に巡り、背中にはバッテリーがドンっと据えつけられている。標準的なものと同じぐらいだか、機能を考えると薄いかもしれない。 (……壊す必要はないかな。) オーディーンがスキャンした結果を手元のモバイルで確認して思う。 もし、これが自分の持つものと同等かそれ以上だったのなら、シルヴは迷わず破壊していた。 いくらそれが画期的な発明品だったとしても。 しかし無茶苦茶なこれも、もしかしたら「化ける」かもしれない。そう考えたところでぐいっと肩を引かれた。 そして気がつくと彼の胸の中に納まっている自分に気がつく。 「ええっと……?」 困惑して見上げると彼のやたらとキラキラした真っ白い歯が見えるほどの笑顔が映った。 「まだ自己紹介は正式にしていなかったな。我輩、名を坂崎康義という。以後、見知りおいとけ。」 ……なんて態度だ。そう思うが大人しく笑顔を作って答えておく。 「僕は……シルヴです。よろしく。」 後ろのほうでレポーターが何故か二人を見て鼻血をたらしてたりするのだが、二人は気が付かない。 坂崎は勢いよく向きを変えると芝居がかった動作で“ウエコさん”を身につけていく。見掛けの割には軽いらしく、どう見てもインドア派な彼もふらつかずに歩き出した。 奥にある扉を開けば、そこはもう異世界。 現実の世界に戻ってこれる保証は無い。 シルヴはカメラに入らないという約束を守って一番最後を歩く。 饒舌な坂崎はとめどなく言葉を吐き、レポーターはそれを一生懸命拾っている。 一体あれだけの言葉の中でどれだけが採用されるのだろう。 シルヴのその足が境界線を越える。 (……へぇ……) 自然と口の端がつりあがった。 この遺跡は……ネズミの顔をしてハンターを屠る、ライオンだ――。 |
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