People in the Marvelous Wind 2(仮)
》 hunt 4 : 「………なんつーか、ネーミングセンスとかの問題以前だな。クリスが嫌がった気持ちが、わかりすぎるほどわかる」 転送されてきた少し前の映像記録を眺め、ロウはしみじみ呆れていた。 現在地は、映像にある『遺跡』の入り口から50メートルほど北側にずれている。おかげでお祭り騒ぎのような報道関係の人間も近隣のやじうまも周囲にはいない。それでも念を入れて車の中から『遺跡』の状況を確認していた。 ちなみにクリスから借りてきた車なので、この車の機能を用いて採取した情報の全てはリアルタイムでクリスの元に送られる。クリスからの情報も同様。非常に便利である。 また、今回特に協会の許可証をフロントガラス面に添付してあるので、放置しておいても警察に駐車禁止を取られる恐れはない。それを無視する車上荒らしは、………クリスのおもちゃの被験者となるだけの話である。 調整を終えたモノクルを左眼にあてがい、スイッチを入れる。シュンッと囁くように微かな起動音と共に種々の数値が表示されてゆくのを順に確認し、最後に最下部の画像を起こした。 「…おいこら、寝てんな」 「おお、悪ィ。あんまり連絡来なかったんで、転寝しちまった」 わざとらしい言い様は聞き流し、受信状況を調節する。現時点では良好、と。 「聞けよ、おい。まあいい。『遺跡』に入ったらさっさと中継器を設置してくれよ、場所はおまえの判断に任せるから。入って即通信不可になったら、やる必要もないが」 「んなガラクタ、掴ませたつもりなんざないくせに」 「お〜や、信用してくれてるんだ?」 「アレと同類扱いされたくないんなら、それくらいはやってもらわんと」 「………」 唐突に沈黙したクリスを余所に、全ての装備を身につけ終えたロウは件の中継器が取り出しやすい位置にあることを確認した。普段ならば、『遺跡』内にいる間は自分だけを頼りにするのだが、今回に限ってはそうも言ってられないからだ。 『試用実験を行なってる件については知ってる?』 「お久しぶり。何かあったのか?」 着信と同時にスピーカーから流れ出た、相手を確認しようともせぬ相手の質問に尋ね返すことで肯定し、クリスは壁面スクリーンの一部に画像を開いた。 『その『遺跡』のランクチェックを、緊急に、おまえにしてほしいんだけど』 「なにそれ。ミスの可能性があるっての?」 『担当者が、取りこぼしたデータがあったって、真っ青な顔で出頭してきたんだよ。減俸覚悟の表情してて、やば気』 「あれま」 『再チェックして公表通りならいいとして、或いは入ってるのがハンターならまだましなんだけど、…今回ほら、ねえ?』 煌めく黄金色の髪をさらりとゆらして微妙な笑みを浮かべた青年に、クリスも同様の微苦笑を返した。 『協会の面子もあるからね。ミスの公表は当然するにしても、犠牲者は出しちゃうとまずいでしょ、一度は安全だって言って一般人に許可出しちゃったわけだし。責任はとらないとさ』 「なるほど…」 言いながら、既にその両手は素早く周囲の機器を操作し、『遺跡』のチェックを進めていた。呼び出される情報量は並ではない、しかし一瞬の遅滞もなくチェックし、或いは別の情報に統合してゆく。ウィザードの呼び名に恥じない一連の動きを、顔に出しはしないものの感嘆しつつロウは傍観していた。 「…でもまあ、そういう意味だったら不幸中の幸いってのがあるよ」 『んん? 何を掴んでるわけ、クリス?』 「ふふん、…と出た。う〜わ、担当者は減俸必至だね」 『マジ?』 「まじまじ。一応弁護しとくと、チェック時に慎重な作業を要するカムフラージュタイプだったってことかな、最高ランクだよ、あれ」 『後処理が面倒そうだなぁ、もう。あいつは減俸と再研修で決定』 「で、対応策は?」 『そうだね……。クリス、今、ロウが何処行ってるか知ってる?』 「俺の後ろ」 『らっきー! じゃ、頼むわ。全員生かして連れてきて』 輝く美貌でにっこりと、あっさりと彼は言い切った。目の前にいたらぽんと両肩を叩かれていただろう。 ロウは天を仰いだ。 これは逆らっても無駄だ。こんな無茶な依頼を受けるのは非常に不本意なのだが、少なくとも、前にこの表情で頼まれたときは、どんなに逆らってもまるで無駄だった。 「……報酬とは別に、今回の必要経費は全部そっちに回してかまわないんだな?」 『うん、いいよ。こっちの権限で便宜図れることは最優先でやるし、クリスもこき使っていいから』 「勝手に許可出すなよ、てめえ」 『いいじゃない。どうせ最高ランクの『遺跡』の内部に興味津々なんでしょう? ついでついで』 あはははは、と画面の向こうで美青年は無邪気に笑い、じゃあ頼むよ、と通信をぶっちぎった。 「…ああいうのを、『悪魔の微笑み』って言うんだろうな」 自分がここに来るに至った経緯を思い起こしてロウは呟き、そんな相手と幼馴染なのだというクリスにこっそり同情する。クリスの性格がたまに見事にねじれているのは、あの美青年のせいに違いない。 ようやく意識を取り戻したクリスに情報のモニターを頼み、彼は車を後にした。幸い『遺跡』自体は内部に入りやすい形態をしている。如何にもカムフラージュタイプらしい、つまりは外観からして罠なのだ。 全て承知で、ロウは両手を広げた罠に踏み込む。 馴染んだ皮膚感覚に包まれた瞬間、予想に違わず、クリスからの通信画面部が真っ黒になった。 この中から、どうにも勘違いしまくっている研究者を始めとする一般人を救出しなければならないのだが。 「不幸中の幸い、ねえ。………火に油、って気もするが」 こんな場合だというのに、ロウの口元には楽しげな微笑が浮かんだ。 |
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